春の訪れ
わしは田中義一。この村で生まれ育って80年、ずっと土と共に生きてきた。
役場の若い衆が、村の情報を発信しろと言うもんで、よう分からんが始めてみた。これが「ぶろぐ」というもんらしい。まあ、日々の畑仕事の記録でも残しておくか。
長い冬もようやく終わり、畑の土も顔を出し始めた。今年も美味い米と野菜を作る。それだけがわしの生きがいだ。土は正直だ。手をかければかけただけ、応えてくれる。
最近、村では11月の奉納祭の準備が始まった。今年は古式に則って盛大にやるらしい。村長や神主様もえらく張り切っておる。わしら年寄りは、ただただ村の安寧を祈るばかりだ。この村は、昔から「禍ツ神」様と共に生きてきた。神様を敬い、正しく祀れば、村は栄える。そういうもんだ。
最近越してきた若い夫婦のところの坊主が、わしの畑に興味津々でな。さやかさんとか言ったか。都会から来たのに、よくできた嫁さんだ。時々、採れたての野菜を分けてやると、嬉しそうに笑う。ああいう笑顔を見ると、こっちも嬉しくなる。