土に還る
明日が、奉納祭だそうだ。
もう、どうでもよくなった。トンネルが崩れようが、電話が通じなかろうが、わしには関係ない。わしは、この土地から離れては生きていけん。この土が、わしの全てだ。
あの赤い稲を刈り取って作った酒を、昨晩、村長が持ってきおった。「神様への捧げものだ。これで我らも神様とひとつになれる」と言ってな。飲んでみたら、不思議な味がした。土の匂いと、血の匂いが混じったような。体の芯が、じんわりと温かくなる。そして、あの低い音が、頭の中でずっと鳴り響いておる。あれは、禍ツ神様の声だ。わしらを呼んでおられる。
もう、何も怖くない。むしろ、心が穏やかだ。80年、土と共に生きてきた。土を耕し、種を蒔き、作物を育ててきた。だが、今なら分かる。わしらが土を育てていたのではない。土が、わしらを育てていたのだ。わしら自身が、禍ツ神様への捧げものだったのだ。
さやかさんと、あの坊主の顔が浮かぶ。可哀想にな。あいつらは、蒔かれる場所を間違えた、新しい種だった。願わくば、苦しまずに土に還れるといいが。
この「ぶろぐ」とやらも、これで終わりだ。もし、これを読んでいる者がいるのなら、一つだけ言っておく。
この土地は、常に飢えている。決して、この村の土を踏んではならん。