赤い稲

2020年10月20日

今年の稲は、全部赤くなった。

最初は病気かと思った。だが、違う。穂が赤いのではない。茎も、葉も、根も、全てが深い紅色に染まっておる。まるで、田んぼ一面が血の海のようだ。

農協に相談しようにも、電話が通じん。そもそも、農協の連中も、もう正気ではないだろう。先週、組合長の黒田が「今年の米は禍ツ神様への捧げものだ。出荷はしない。全て奉納祭に使う」と言い出した。

不思議なことに、この赤い稲は、異常に育ちが良い。通常の3倍はある。そして、夜になると、田んぼから低い唸り声のようなものが聞こえる。風の音ではない。あれは、稲が歌っているのだ。

80年、米を作ってきたが、こんなことは初めてだ。いや、嘘だ。一度だけ、子供の頃に見たことがある。じいさまが「あの年」と呼んでいた年。じいさまは、あの年のことを話すたびに、顔が真っ青になった。

「あの年の米を食った者は、みんな笑いながら山に登って行った。そして、誰も帰ってこなかった」

わしは、あの米を食ってしまった。