令和2年10月臨時会 議事録

日時: 令和2年10月19日(月) 午前9時〜午後2時17分

場所: 黄泉戸村役場 3階 議場

出席議員: 5名(定数6名、田中一郎議員は入院のため欠席)

説明員: 神主・橘宗一郎(黄泉戸神社)、総務課長・山口隆(役場職員)


開会

議長(黒川義孝): ただいまより、令和2年第1回臨時会を開会いたします。本日は、11月15日の奉納祭に向けた緊急の案件が3件ございます。なお、田中議員は引き続き入院加療中のため欠席です。ご了承ください。


議案第13号:奉納祭特別準備費の専決処分の承認について

議長: 議案第13号について、総務課長より説明を求めます。

総務課長(山口隆): 令和2年10月3日付けで、村長が専決処分を行いました奉納祭特別準備費、金1,397万円の支出について、議会の承認をお願いするものです。内訳は、白装束の調達費が312万円、神社境内の整備費が485万円、祭壇用資材費が600万円となっております。

議員(松田幸子): 1,397万円という金額は、例年の奉納祭予算の約20倍です。これほどの規模になった理由をお聞かせください。

村長(黒川義孝): 松田議員、今回の奉納祭は100年に一度の「大奉納祭」です。古文書の記述によれば、この規模の儀式を行うためには、村民全員が白装束を着用し、神社境内に整然と並ぶ必要があります。また、祭壇の構造も通常とは異なり、御神体を中心とした特殊な配置が求められます。費用は必要最小限であると、神主様からもご確認いただいております。

神主(橘宗一郎):(説明員として登壇)古文書「禍ツ神降臨記録」第三巻に詳細な記述がございます。百年の周期で訪れる「大接近」の際、御神体の周囲に村民全員が集い、特定の祝詞を唱えることで、神との「契約」が更新されます。この契約こそが、我々の村が存続してきた理由であります。費用の多寡を問うより、この機会を逃さないことが重要です。

【速記者注】「禍ツ神降臨記録」第三巻は、神社の蔵に保管されている。田中議員はこの古文書のコピーを入手しようとしたが、阻まれた。

議員(川島正一): 神主様、「契約の更新」とは具体的にどういうことでしょうか。更新されなかった場合、何が起きるのですか。

神主: 古文書には「契約が更新されぬ時、神は村を見捨て、大いなる災いが訪れる」とあります。ただし、正しく儀式が執り行われた場合については……(しばらく沈黙)……村民は「新たな段階」へと進むことができる、と記されています。

議員(田中健二): 「新たな段階」とは?

神主: 言葉では説明が難しい。ただ、それは祝福です。間違いなく、祝福です。

議長: 他に質疑はございませんか。…では採決に入ります。議案第13号に賛成の方は起立願います。

(5名全員起立)

議長: 全員賛成。議案第13号は可決されました。


議案第14号:村民への奉納祭参加通達の発出について

議長: 続いて議案第14号、村民への通達文の内容について審議します。総務課長、草案を読み上げてください。

総務課長: 草案を読み上げます。「黄泉戸村民の皆様へ。令和2年11月15日(日)午後11時より、黄泉戸神社にて百年に一度の大奉納祭を執り行います。本奉納祭への参加は、令和2年9月定例会において制定された『黄泉戸村奉納祭参加義務条例』に基づき、全村民の義務とされております。当日は白装束(役場にて無償配布)を着用の上、午後10時30分までに神社境内にお集まりください。正当な理由なく欠席した場合は、条例第7条の規定により処罰の対象となります。なお、乳幼児・高齢者・病人についても、可能な限りご参加いただきますようお願い申し上げます。黄泉戸村長 黒川義孝」以上です。

議員(松田幸子): 「乳幼児・高齢者・病人についても可能な限り」という文言は、人道的に問題があるのではないでしょうか。体調の優れない方への配慮が必要です。

村長: 松田議員のご懸念はわかります。しかし、一人でも欠ければ儀式は成立しません。古文書には明確に「全員」と記されています。体調の悪い方は、担架や車椅子での参加でも構いません。大切なのは、全員が境内にいることです。

議員(神山照雄): 村長のおっしゃる通りです。これは村の存亡がかかった問題です。個人の体調より、村全体の未来を優先すべきです。

議員(松田幸子): ……わかりました。

議長: 採決します。議案第14号に賛成の方は起立願います。

(5名全員起立)

議長: 全員賛成。議案第14号は可決されました。通達は本日付けで全戸配布いたします。


議案第15号:田中一郎議員の議員資格の停止について

議長: 最後に議案第15号です。田中一郎議員は、令和2年10月1日付けで入院し、以後議会への出席が困難な状態にあります。また、入院前に田中議員が村外の複数の機関に対して「黄泉戸村で異常な事態が起きている」旨の通報を行ったことが確認されています。この行為は、村の秩序と奉納祭の円滑な執行を著しく妨げるものであり、議員としての資格を一時停止することを提案します。

議員(川島正一): 田中議員が通報したというのは事実ですか。

村長: 事実です。県警察本部と、某新聞社に連絡が入ったことを確認しています。幸い、いずれも「証拠不十分」として取り合ってもらえませんでした。しかし、今後同様の行動が繰り返されれば、奉納祭の実施に支障をきたす恐れがあります。

議員(田中健二): 田中一郎議員は、何を通報したのですか。

村長: ……「村民が危険な宗教的儀式に強制参加させられようとしている」と。

(沈黙)

議員(神山照雄): 田中議員は、理解が足りないのです。禍ツ神様の御心を知れば、これが祝福であることがわかるはずです。しかし、今は時間がありません。議員資格の停止に賛成します。

議員(松田幸子): ……(長い沈黙の後)……賛成します。

議長: 採決します。議案第15号に賛成の方は起立願います。

(5名全員起立)

議長: 全員賛成。議案第15号は可決されました。田中議員には本日付けで通知します。

【田中一郎議員の手書きメモ(議事録に挟まれていたもの)】
禍ツ神降臨記録・第三巻の内容を確認した。「村民全員が御神体の前に集まり、祝詞を唱え終えた時、神は扉を開く。村民は扉を通り、神の元へ帰還する。これは死ではなく、昇華である」——これは集団自決の計画だ。誰かに伝えなければ。
※ このメモは田中議員が議事録に挟んで残したものです。田中議員は現在も行方不明です。

その他

議員(川島正一): 一点確認させてください。奉納祭の後、我々はどうなるのでしょうか。「新たな段階」というのが、どうしても気になっています。

村長: 川島議員、心配は無用です。神主様からも伺っておりますが、それは……とても、穏やかなことです。

神主: 痛みはありません。恐怖もありません。ただ、星の海へと。

議員(川島正一): ……そうですか。

(以下、速記録より)

川島議員は、この後しばらく下を向いたまま動かなかった。隣の田中健二議員が肩に手を置くと、川島議員は小さく頷いた。その後、議長が閉会を宣言した。


議長: 以上で本日の議事を終了します。次回の議会は11月1日に臨時会を開催します。

(午後2時17分 閉会)

※ この議事録は、令和2年10月26日に役場総務課が作成しました。

※ 田中一郎議員への議員資格停止通知は、同日付けで入院先の病院に送付されました。田中議員は通知受領後、病院から姿を消しています。

※ 田中議員の現在の所在は不明です。

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