黄泉戸村役場 内部保管文書 / 蔵 補遺
神主の遺書
── 橘宗一郎の告白
記録者:橘宗一郎(黄泉戸神社 第十七代神主)
記録日:令和2年(2020年)11月14日
発見場所:黄泉戸神社 社務所 机の引き出し
発見時開封済

これを読んでいる者へ。
私は橘宗一郎。黄泉戸神社の神主である。

明日の夜、すべてが終わる。
いや、すべてが始まるのかもしれない。
もう、どちらでも同じことだ。

私は五十年間、禍ツ神に仕えてきた。
父から受け継いだ祝詞を唱え、
御神体の前で祈り、
贄を伴う奉納祭を三度、執り行った。

三度の奉納祭で、三人の贄を見送った。
昭和四十八年の山田清。
平成元年の佐藤ハル。
平成九年の大森花子。
三人とも、自ら志願した。三人とも、笑っていた。

贄は、地下祭壇で御神体の前に座り、
私が祝詞を唱え終わると、
静かに消えた。
痛みはない。恐怖もない。
ただ、光に包まれて、消える。

私は、それが「救い」だと信じていた。

しかし、今年は違う。
今年は、全員が贄になる。
村長がそう決めた。
そして、全員が同意した。

私は反対した。
儀式の正しい形は、一人の贄だ。
全員を捧げるなど、前例がない。
禍ツ神がどう反応するか、分からない。

だが、村長は言った。

「宗一郎さん、あなたも聞こえているでしょう。
御神体の声が。
『全員で来い』と、言っている。
あなたにも、聞こえているはずだ。」

……聞こえている。
確かに、聞こえている。
毎晩、夢の中で。
六角形の文様の中心から、声が響く。

「帰っておいで」と。

私は、この声に五十年間従ってきた。
しかし、今回だけは迷っている。

全員が行くということは、
この村の記憶を残す者がいなくなるということだ。
禍ツ神の儀式を伝える者がいなくなるということだ。

だから、私はこの遺書を残す。
そして、もう一つ。
████████████████
██████の中に████を隠した。
もし誰かがこの村の真実を知りたいと思うなら、
村の広報を読んでほしい。
季節を告げる欄に、
私は二つ目の言葉を隠した。

明日の夜、私は最後の祝詞を唱える。
三百九十七人の魂を、禍ツ神に捧げる。
私自身の魂も含めて。

これが正しいことなのか、もう分からない。
ただ、御神体の声は優しい。
「帰っておいで」と言っている。
まるで、母親のように。

もし、これを読んでいるあなたが、
この村に何が起きたのかを知りたいなら、
蔵の記録を全て読んでください。
そして、二つの言葉を見つけてください。

一つ目は、村長が最初に書いた挨拶の中に。
二つ目は、季節を告げる頁の中に。
二つの言葉がそろえば、
最後の扉が開きます。

……いや、開かないでください。
開かないほうがいい。
私たちの過ちを、繰り返さないでください。

── 橘宗一郎
令和2年】月】日 深夜

私モ、スグニイク。アナタモ、スグニイク。
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