これを読んでいる者へ。
私は橘宗一郎。黄泉戸神社の神主である。
明日の夜、すべてが終わる。
いや、すべてが始まるのかもしれない。
もう、どちらでも同じことだ。
私は五十年間、禍ツ神に仕えてきた。
父から受け継いだ祝詞を唱え、
御神体の前で祈り、
贄を伴う奉納祭を三度、執り行った。
三度の奉納祭で、三人の贄を見送った。
昭和四十八年の山田清。
平成元年の佐藤ハル。
平成九年の大森花子。
三人とも、自ら志願した。三人とも、笑っていた。
贄は、地下祭壇で御神体の前に座り、
私が祝詞を唱え終わると、
静かに消えた。
痛みはない。恐怖もない。
ただ、光に包まれて、消える。
私は、それが「救い」だと信じていた。
しかし、今年は違う。
今年は、全員が贄になる。
村長がそう決めた。
そして、全員が同意した。
私は反対した。
儀式の正しい形は、一人の贄だ。
全員を捧げるなど、前例がない。
禍ツ神がどう反応するか、分からない。
だが、村長は言った。
「宗一郎さん、あなたも聞こえているでしょう。
御神体の声が。
『全員で来い』と、言っている。
あなたにも、聞こえているはずだ。」
……聞こえている。
確かに、聞こえている。
毎晩、夢の中で。
六角形の文様の中心から、声が響く。
「帰っておいで」と。
私は、この声に五十年間従ってきた。
しかし、今回だけは迷っている。
全員が行くということは、
この村の記憶を残す者がいなくなるということだ。
禍ツ神の儀式を伝える者がいなくなるということだ。
だから、私はこの遺書を残す。
そして、もう一つ。
████████████████
██████の中に████を隠した。
もし誰かがこの村の真実を知りたいと思うなら、
村の広報を読んでほしい。
季節を告げる欄に、
私は二つ目の言葉を隠した。
明日の夜、私は最後の祝詞を唱える。
三百九十七人の魂を、禍ツ神に捧げる。
私自身の魂も含めて。
これが正しいことなのか、もう分からない。
ただ、御神体の声は優しい。
「帰っておいで」と言っている。
まるで、母親のように。
もし、これを読んでいるあなたが、
この村に何が起きたのかを知りたいなら、
蔵の記録を全て読んでください。
そして、二つの言葉を見つけてください。
一つ目は、村長が最初に書いた挨拶の中に。
二つ目は、季節を告げる頁の中に。
二つの言葉がそろえば、
最後の扉が開きます。
……いや、開かないでください。
開かないほうがいい。
私たちの過ちを、繰り返さないでください。
── 橘宗一郎
令和2年】月】日 深夜