この遺書を読んでいる人へ。
私は、黄泉戸村長・黒川義孝です。 今夜、私は村民とともに神社へ向かいます。 この遺書は、私が戻らないことを前提に書いています。
まず、謝罪を述べなければなりません。
私は、村民に真実を告げませんでした。 奉納祭が何を意味するのか、参加することで何が起きるのか、 誰にも教えませんでした。
それは正しい判断だったと思っていました。
いいえ。正しくなかった。 私は、ただ怖かったのです。 真実を告げれば、村民が逃げようとする。 逃げようとすれば、禍ツ神が怒る。 禍ツ神が怒れば、何が起きるかわからない。 だから、黙っていた。
父から村長職を引き継いだ時、父はこう言いました。 「村長の仕事は、村民を守ることだ。しかし、禍ツ神からは守れない。 だから、村民が苦しまないように、真実を隠すことが村長の役目だ」と。
私は、その言葉を信じてきました。 今も、半分は信じています。
田中一郎議員が、真実を知ってしまいました。 私は彼を止めようとしました。 強制的な手段も検討しました。
田中議員は、今どこにいるのでしょう。 私は、彼に何もしていません。 ただ、「外に出ることはできない」と伝えただけです。 その後、彼は姿を消しました。 自分で隠れたのか、それとも……。
禍ツ神の声が、毎晩聞こえます。 「帰っておいで」という声が。 父も、祖父も、同じ声を聞いたと言っていました。 その声は、とても優しい。
だから、これは「祝福」なのだと、私は信じたい。
でも、田中議員の言葉が頭から離れない。 「これは集団自決の計画だ」という言葉が。
村民の皆さんへ。 あなたたちは、何も悪いことをしていません。 ただ、この村に生まれただけです。 それが、あなたたちの「罪」だとしたら、 その罪を作ったのは、私たち村長の一族です。
田中さやかさんへ。 ひなちゃんを、よろしくお願いします。 ……いや、もう間に合わないか。
橘神主へ。 あなたは、私より真実を知っている。 でも、あなたも同じように苦しんでいた。 それだけは、わかっていました。
黄泉戸村は、美しい村でした。
山があり、川があり、人々が笑っていた。
その記憶だけを、持って行きます。
このサイトを見ている、村外の方へ。
黄泉戸村には、もう誰もいません。 でも、記録は残っています。 蔵の文書を、すべて読んでください。 そして、私たちのことを、覚えていてください。
禍ツ神は、次の百年を待っています。 令和102年、また「収穫」が始まります。 その時、誰かがこの記録を見つけて、 次の村民を救ってくれることを、願っています。
禍神口星喂
……声が聞こえる。行かなければ。
村長室の机の引き出しから発見。遺書の他に、以下のものが入っていた:
封筒の中身は確認していない。
この遺書とともに蔵に保管する。
私も、もうすぐ行く。
「次の村長へ」の封筒の中身:「この村を、終わらせてください。禍ツ神との契約を、破棄してください。方法は、御神体を破壊することです。御神体は黒い鏡です。鏡を割れば、扉は閉じます。次の収穫は起きません。でも、私にはできなかった。あなたに、託します。鏡の間へは、神社の地下参道の最奥から。場所は、村の地図の座標記録に残してある。」