このブログについて
はじめまして。黄泉戸村に住む高校2年生の川島蒼太です。
このブログは、俺が東京の大学に合格して村を出るまでの記録です。タイトルは「村脱出計画」。別に村が嫌いなわけじゃないけど、ここにいたら何もできないから。
黄泉戸村は、山の中の小さな村です。コンビニもない、映画館もない、友達は全員顔見知り。悪い場所じゃないけど、俺にはここじゃない場所がある気がする。
来年の春、絶対に東京に行く。それだけ。
高3になった
高3になった。いよいよ受験本番の年。志望校は東京の国立大学。理系。
村の中で大学に行くのは毎年2〜3人くらい。みんな地元の大学に行って、そのまま村に戻ってくる。俺はそうなりたくない。
親父は「村を継げ」と言う。農家の息子だから。でも俺は農業がしたいわけじゃない。村長も「村の若者が出て行くのは寂しい」と言う。でも、俺の人生は俺のものだ。
今年は特別な年らしい。御神体降臨100周年とかで、村中が盛り上がっている。俺には関係ない話だけど。
変な音のこと
最近、夜中に変な音が聞こえる。
蝉の声に似てるけど、蝉じゃない。音の数が多すぎる。それに、蝉は夜中にあんなに鳴かない。
音に合わせて、頭の中に何かが浮かんでくる気がする。幾何学的な模様みたいなもの。目を閉じると見える。目を開けると消える。
親父に話したら「昔からそういう音が聞こえる時期がある」と言った。「御神体の声だ」と。
御神体の声?石が声を出すわけがない。でも、音は確かに聞こえる。
受験勉強に集中しなきゃいけないのに、夜眠れない日が続いている。
合格発表と、村のこと
推薦入試で合格した。東京の大学。
嬉しいはずなのに、なんか変な気分だ。
村長が「おめでとう。でも、11月の奉納祭には必ず参加するように」と言いに来た。「全村民参加だ。合格したからといって、例外はない」と。
なんで合格の話をしてるのに奉納祭の話になるんだ。
最近、村の雰囲気がおかしい。みんなどこかぼんやりしてる。目が、なんか遠い。俺の友達も、話しかけると「奉納祭が楽しみだ」とか「今年は特別だ」とか、そんな話しかしない。
俺だけ、何かに乗り遅れてる気がする。それが怖いような、安心するような。
逃げようとした
正直に書く。
奉納祭の前に村を出ようとした。荷物をまとめて、バスに乗ろうとした。
でも、バスが来なかった。時刻表通りに来るはずのバスが、来なかった。
村長に電話したら、「バス会社に確認したところ、今月は運休だそうだ」と言った。そんな話、聞いていない。
車で山を越えようとしたら、道が土砂崩れで通れなかった。
偶然が重なっているだけだと思う。そう思いたい。
でも、なんか、もう逃げられない気がしてきた。
あの音が、また聞こえ始めた。
夜の練習
奉納祭の練習が毎晩ある。神社の境内で、みんなで踊る。
最初は嫌だった。でも今は、体が勝手に動く。音楽なんか流れてないのに、みんな同じリズムで動いている。
練習が終わると、いつも空が赤い。夜なのに。星が全部、同じ方向を向いている気がする。
帰り道、田中のじいちゃんとすれ違った。目が合ったけど、何も言わなかった。じいちゃんの目が、光って見えた。
選ばれるということ
今日、村長に呼ばれた。「お前は特別だ」と言われた。
何が特別なのか聞いたら、「御神体が反応している」と。意味が分からなかったけど、嬉しかった。なんでだろう。
母さんが泣いていた。嬉し泣きだと思う。父さんは黙って頷いていた。
さやかさんのブログを読み返した。ひなたちゃんのことが書いてあった。「この子は特別」って。俺と同じことを言われたのかもしれない。
東京の大学のことは、もういいかなと思い始めている。
[削除された記事]
※ この記事は投稿者、または管理者によって削除されました。
違う、違う、違う。
選ばれたんじゃない。「生贄」だ。
昨日の夜、親父が電話してるのを聞いてしまった。「ええ、うちの蒼太で間違いありません。はい、御神体のための器として。光栄です」って。
村の人口がずっと400人前後なのは偶然じゃない。増えすぎた分は「間引いて」いたんだ。地下の祭壇で。
さやかさんの子供も、田中さんのところの奥さんも、みんな村から出て行ったんじゃない。地下に連れて行かれたんだ。
俺は逃げる。絶対に逃げる。今夜、親が寝静まったら裏山から抜ける。このブログを見た人、警察を呼んでくれ。黄泉戸村は狂ってる。
明後日のこと
明後日、奉納祭がある。
もう逃げようとは思わない。なんでかは、うまく説明できない。ただ、逃げる必要がない気がしてきた。
音が、ずっと聞こえている。頭の中の模様が、ずっと見えている。でも、もう怖くない。むしろ、きれいだと思う。
東京の大学の入学手続きの書類が届いている。でも、行かなくていいかもしれない。ここにいてもいいかもしれない。
村長が言っていた。「選ばれた者は、最後に必ず分かる」と。
俺にも、分かってきた気がする。
もし受かったら、二度とこの村には戻らないと思っていた。でも今は、戻ってきてよかったと思う。
このブログを読んでいる人へ。もし黄泉戸村に来る機会があったら、神社に寄ってみてください。御神体を見てみてください。きっと、分かります。