村外観測者・三枝真由 調査ノートFIELD NOTES / MAYU SAEGUSA
黄泉戸村・調査メモ
山口隆と初めて通話。役場の総務課長だと名乗った。人口統計、予算、道路規制が同じ日付へ集まっている、と。冗談かと思ったが、送られてきた台帳の数字は本物に見える。彼は「村の中の記録だけでは証明できない。外から見た記録が必要だ」と言った。
無線に知らない信号。周波数247。山口からのメッセージは短い。「今夜、村が地図から消える。記録を受け取ってほしい」。なぜ私なのかと聞くと、「外の人だから」と答えた。
北部観測所の知人から連絡。星が消えたと言う。私のカメラにも、黄泉戸村の方向だけ黒い穴が写った。無線には、誰かが鏡を見ないでと繰り返している。
「鏡」――山口が以前、一度だけ口にした語。役場の予算に載らない備品だと言っていた。
端末に一つだけファイルが届いた。ファイル名は
record_0.yom。開くと、行政資料、住民の名前、道路規制、そして空の地図が入っていた。黄泉戸村の輪郭だけが、最初から塗りつぶされていた。村境まで来た。道路はあるのに、標識が読めない。警備員に山口の名前を出したら、全員が同時にこちらを見た。白い手袋。誰も無線機を持っていないのに、247の雑音が聞こえた。
村へは入らない。山口は、記録だけを外へ出したかったのだと思う。ファイルを複製し、郵便局経由で自分宛てに送る。もし届かなければ、地図の更新履歴を見てほしい。村は消えたのではない。消えるように記録された。
受信メッセージ断片/送信者:STM-01
23:58:12 export requested:
23:59:41 if this reaches you, do not come inside.
00:00:03 the map will forget before people do.
00:00:04 記録は残せ。人は……
23:58:12 export requested:
/record/0/23:59:41 if this reaches you, do not come inside.
00:00:03 the map will forget before people do.
00:00:04 記録は残せ。人は……
照合の手がかり:三枝は山口隆の外部書き出しを受け取り、地図が消える瞬間を村外から見ていました。気象、無線、地図更新の三資料は、彼女のノートに記された時刻を裏付けます。村の消失は怪異の結果であると同時に、記録の側から実行された処理でした。
山口さんは、逃げる人ではなかった。
だから、外に出したのは自分ではなく、証拠だった。
――三枝真由・最後の頁。
関連資料
- R-001:記録係・山口隆に関する照合報告 — STM-01からの最後の書き出し。
- T-002:山口隆・記録送付経路時系列 — 投稿、端末操作、受信記録の確定範囲と空白を時刻順に照合する。
- CF-005:通信記録束 — 通報、未送信、封筒、削除記事、受領控えを到達状況ごとに照合する。
- EP-003:返送不能・複製照合票 — 複製の意図、郵便の未達、紙面の閲覧を同じ保全経路と断定せず照合する。
- O-006:地図データ更新履歴 — archive-0による0時00分の更新。
- R-003:照合報告「地図から消える村」 — 村外記録を照合して復元される結論。
- 記録復元端末 — R-001〜R-004と蔵文書第八巻を照合すると、受信ファイルrecord_0.yomの復元経路を確認できる。