村外観測者・三枝真由 調査ノートFIELD NOTES / MAYU SAEGUSA

資料番号:O-007/令和2年11月16日個人資料・自動公開
記録者
三枝 真由/北県地域記録保全会・調査協力者
立場
北県アマチュア無線クラブ所属。地方紙の縮刷版調査にも協力。
資料の経路
令和2年11月15日夜、山口隆から暗号化された書き出し通知を受信。
最終記録
令和2年11月16日 01:32。以降、本人の所在は確認できない。

黄泉戸村・調査メモ

山口隆と初めて通話。役場の総務課長だと名乗った。人口統計、予算、道路規制が同じ日付へ集まっている、と。冗談かと思ったが、送られてきた台帳の数字は本物に見える。彼は「村の中の記録だけでは証明できない。外から見た記録が必要だ」と言った。
無線に知らない信号。周波数247。山口からのメッセージは短い。「今夜、村が地図から消える。記録を受け取ってほしい」。なぜ私なのかと聞くと、「外の人だから」と答えた。
北部観測所の知人から連絡。星が消えたと言う。私のカメラにも、黄泉戸村の方向だけ黒い穴が写った。無線には、誰かが鏡を見ないでと繰り返している。

「鏡」――山口が以前、一度だけ口にした語。役場の予算に載らない備品だと言っていた。

端末に一つだけファイルが届いた。ファイル名は record_0.yom。開くと、行政資料、住民の名前、道路規制、そして空の地図が入っていた。黄泉戸村の輪郭だけが、最初から塗りつぶされていた。
村境まで来た。道路はあるのに、標識が読めない。警備員に山口の名前を出したら、全員が同時にこちらを見た。白い手袋。誰も無線機を持っていないのに、247の雑音が聞こえた。
村へは入らない。山口は、記録だけを外へ出したかったのだと思う。ファイルを複製し、郵便局経由で自分宛てに送る。もし届かなければ、地図の更新履歴を見てほしい。村は消えたのではない。消えるように記録された。
受信メッセージ断片/送信者:STM-01
23:58:12 export requested: /record/0/
23:59:41 if this reaches you, do not come inside.
00:00:03 the map will forget before people do.
00:00:04 記録は残せ。人は……
照合の手がかり:三枝は山口隆の外部書き出しを受け取り、地図が消える瞬間を村外から見ていました。気象、無線、地図更新の三資料は、彼女のノートに記された時刻を裏付けます。村の消失は怪異の結果であると同時に、記録の側から実行された処理でした。

山口さんは、逃げる人ではなかった。
だから、外に出したのは自分ではなく、証拠だった。
――三枝真由・最後の頁。

関連資料