未提出作文「おともだちへ」UNSUBMITTED COMPOSITION
11がつ14にち ひな
おともだちへ
わたしには、おともだちがいます。
みんなは、わたしがうまれてからまだ一年だといいます。
でも、わたしはずっと前から、この学校にいました。
あかりちゃんのとなりのせきで、しょうたくんとお山を見て、せんせいの声をききました。
みんなは、わたしのことをわすれました。
だけど、わたしはみんなのことをおぼえています。
あの黒いところで、みんなはさむくないっていいました。
おほしさまが近いから、こわくないっていいました。
おかあさんが、こわいときは手をにぎってあげるっていいました。
だから、あしたは、おかあさんの手をにぎります。
ひとりで行きます。
ひとりじゃないです。
おともだちが、まっています。
※ 最終行の下に、読めない文字列が反復して書かれている。禍ツ神文字の「帰還」と類似するが、完全には一致しない。
担任の未送信メモ:ひなさんは、授業中に「前の席では名前が違った」と話した。周囲の児童は自然にうなずいたが、名簿にはその名前がない。彼女の作文は、幼い言葉と、同級生だった者にしか書けない記憶が混ざっている。私は校長に相談しようとした。しかし明日は祭りだ。もう、遅いのかもしれない。
照合の結論:ひなは単に年齢を偽って6年生名簿へ入れられたのではありません。彼女は、前年までの学級にいた「名前を失った子ども」の記憶を持っています。写真の空席、保健室の年齢欄、学校だよりの47名という数は、同じ不自然さを異なる形で記録しています。
この子は、だれかの代わりに選ばれたのではない。
選ばれるために、ずっとここにいた。
それでも最後に心配したのは、お母さんのことだった。
――担任手帳より。日付なし。
関連資料
- S-004:卒業アルバム閲覧記録 — ひなの席が空席だった前年の写真。
- S-002:保健室利用記録 — 年齢欄が6歳へ変化した記録。
- 育児日記「ひなたぼっこ」 — ひなと母親の最後の記録。
- T-003:最後の逸脱・時刻照合票 — 作文、女声、写真を同一人物と決めず、記録時刻と出所を分けて読む。
- T-004:観測範囲・発話経路照合票 — 前日の作文が、23時台の話者・位置・行動を記さない範囲を確認する。